つまらぬものを斬ってしまった

誰の琴線にも触れないであろう日常のカタルシス

【自作小説】まりこinわんだーらんど(連載中)

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なんかねー

夢を見まして

その夢がまたすげーファンタジー

恥ずかしいくらいにファンタジーのヒロインでした

この私、41歳につき

 

どーも、まままっこりです

 

でも、このまま忘れるのはもったいないなー

ってちょっと思いまして

ブログ書き起こすついでに

そーいや、41歳が主役のファンタジーって

あんま無いんじゃね?って思っちゃった

 

アリスとかドロシーとかウェンディーとか

どれ取ってもキラッキラの10代

いわゆる少女

 

少女じゃないと不思議の国に行くことは許されない

その金字塔をぶっ壊してみようっつー

謎の冒険心に火がついてしまったので

てか、誰もそれを止める人がいないので

 

実際見た夢をだいぶ誇張して

小説を書いてみることにしました

しかも、自分を主役にもってくるという

勇気ある愚行をやってのけます カッケー、オレ

 

だってほおずきれいこさんが言ったもん

小説家になれるって言ったもん

あのれいこさんのお墨付きだもん

フジコさんも言ってたもん

青空さんも言ってたもん

鵜呑みにしたんだもん

 

てか、忘れたとは言わせないからお三方

 

じっくりゆっくり 

書き増やしていく予定なので

生意気にも「連載」というやつです

 

単純に興味のある方、もしくは

時間を無駄にしても差し支えない方

読んで頂ければ幸いです

 

  

 

 

真梨子と奇妙なピエロ

 

久しぶりの休みだった。

平日ゆえに娘は学校で居なかった

いつも居るはずの夫も、めずらしく出かけている。

とても静かな木曜日の正午だった。

誰がつけたか、テレビだけはにぎやかな声がしている。

ワイドショーのコメンテーターが、どこぞの政治家の醜聞を痛烈に非難し

満足そうにコメントをまとめたところだ。

真梨子はお気に入りの座椅子に全体重を預けてもたれ

それをぼんやり見ていた。

寝間着のTシャツと短パンのまま、今日はもう外に出る気は無かった。

食事すら面倒くさく、朝からコーヒーだけをすすって過ごしている。

コーヒーの湯気でたびたび真梨子の赤い縁の眼鏡が曇り

その都度、得も言われぬ虚無感に包まれた。

(なんて暇なんだろう・・・)

真梨子は憂えていた。

毎日がとても忙しく、とても退屈だからだ。

真梨子が働きに出て、夫が専業主婦になってから早いもので4年経った。

最初の頃は仕事を覚えるのに必死だった事と

家族を守る使命感の様なものに駆り立てられて

がむしゃらで、それなりに充実していた。

それがここの所どーにも空回りしている。

時折襲う倦怠感と無常観が全てにおいて無気力にしてしまっている。

実際、今飲み終わったコーヒーカップ

キッチンに持っていくことすら億劫になっている。

せっかくの休日であるにも関わらず何も手につかないどころか

何の喜びも期待も感じられなかった。

何一つやりたいと思うことも浮かばないまま

淡々と確実に、何事も無く時間だけが過ぎていく。

真梨子は今日、42歳の誕生日だった。

すっかり忘れていたのに、当日になって思い出してしまった。

──誕生日なんて来なくていいのに)

そう思っていても、時間は規則正しく

加えて律儀にこの日を連れてきた。

 

「ブーーーッ!」突然、玄関のブザーが鳴った。

NHKの集金かしら・・・?)

真梨子はそっとテレビを消して立ち上がった。

いざとなったら「ウチTVアリマセン」と言う為だ。

それからゆっくりとドアの前に立ち、ドアスコープから外を覗くと

そこには見慣れないスーツの男性が一人立っている。

NHKではないみたい・・・)不思議に思っていたところに

「ブーーーッ!」「ギャッ!」もう一度ブザーが鳴った。

あまりに驚いたため、少し声が出てしまった。

もう居留守は使えないと観念した真梨子は、恐る恐るドアを開けた。

するとそこには・・・

 

するとそこにはピエロが立っていた。

 

厳密にはピエロのような男が立っていた。

というのも、真梨子はピエロを見たことが無かった。

それでもこの急に現れた見知らぬ男を

ピエロっぽいと認識するには十分な要素があった。

赤と黄色の三つ又に割れた帽子をかぶり

星の形に似たよだれかけのようなものが襟元を覆っていた。

パジャマのようなドレスのようなヒラヒラとした服には

金や銀の刺繍が施されていて、スワロフスキーやビーズが

ところどころでキラリと光っていた。

何と言っても男がピエロに見えた一番の理由は

その尖った先端がクルッと上を向いている靴だろう。

靴の先には当然、丸い金のタマがくっついている。

TVやアニメのイメージしかないが、そんな靴はピエロしか履かないものだ。

イメージ通りでいけば、そんな格好の男は

大きなボールの上でジャグリングをするし

一輪車に乗ったまま綱渡りをするだろう。

しかし、そのほぼピエロの格好の男は、大きなボールにも

一輪車にも乗っていなかった。その代わり

大きな赤い宝石のようなものが付いた金色の笏をクルクルと回し

派手な格好に不釣合いの地味な黒革の旅行バッグを持っていたのだ。

外国人とも日本人とも言えない中立的で端正な顔立ちの

その男はニコニコと常に人懐っこい笑顔を見せていたが

黒革のバッグの存在が真梨子を冷静にさせるには十分だった。

 

(確かさっきドアスコープから覗いた時は

・・・スーツの男性だったような)

 

しかしどこにもスーツの男性はいない。

にわかに信じがたいが見間違えたのだろう。

真梨子の家は3階建てのアパートで、お隣には

70歳を過ぎた田中さんという女性が一人で住んでいる。

田中さんはとても気さくで面倒見がよく

真梨子達家族を普段から気にかけてくれる。

何か事があれば、人の良いお隣さんにも迷惑をかけかねない。

真梨子は改めて自分の警戒心の無さを反省した。

(夫にもよく注意されていたのに・・・。)

そしてゆっくりドアのチェーンに手をかけた。

今からでもこの怪しい男から身を守らなくてはいけないと

自分を戒めた。それと同時に

誰が見ても不審極まりないこの男に、何故かそれほど

恐怖を抱いていない自分自身にも驚いていた。

あまりに現実離れした存在が目の前に現れて

頭の方がついて行っていないのかもしれない。

その様子を察したように男が口を開いた。

「いきなりこのように押しかけてしまい失礼致しました。

ワタクシは使いで参ったのでございます。」

そう言って男はバッグを一旦床に置き

三つ又の帽子をサッと脱いで深くお辞儀をした後

星型の襟元に手を入れ、中から一枚の名刺を取り出し真梨子に差し出した。

「お初にお目にかかります。ワタクシ馬場と申します。」

帽子を脱いだ男の肩に見事な金色の髪がサラリとかかり

男の整った顔立ちに更に彩りを添えていたが

やがて42歳にもなる真梨子にはそれが逆に不信感を募らせた。

差し出された名刺を受け取ることなく真梨子は言った。

「あ、あの、たぶんお宅を間違えていますよ?」

それは当然のことだった。真梨子にはこんなへんてこりんな格好の

しかもこんな仰仰しい言葉遣いの使いを送ってくるような知り合いは

一人もいない。もちろん夫の知り合いにも聞いたことが無い。

それを聞いた男はアハハと声を軽くあげて笑うと

「間違いなんてとんでもない、真梨子様。

ワタクシは貴女に用事があって参ったのです。」

相手が自分の名前を知っていたことに、内心ギョッとしていたが

それを悟られてはいけないと、真梨子は極めて冷静なフリをした。

動揺しているのを人に見られるのは苦手だった。

それが初めて会う人なら尚の事。

「あのー、どなたから、一体何の用事でしょう?

私、これから出かけなくてはいけないので

手短にお願いできますか?」

出かけなくてはいけない用事など無かったが、この会話に

真梨子は保険をかけたつもりだった 。

「そんなに警戒なさらずとも大丈夫です。

貴女様のご主人からお預かりしたものがございまして

そちらをお渡しするよう仰せつかったのでございます。」

そう言いうと今度は金の笏を壁に立て掛け

バッグから白い封筒の様なものを取り出した。

封筒の表には夫の字で「真梨子へ」と書かれていた。

さすがに真梨子は混乱した。

夫にこんな知り合いは居ない。絶対と言っていい。

しかも誰かに妻宛の手紙を託すような人ではないし

そもそも急な用事があるなら電話一つですむ話である。

なのに封筒に書かれているのは、確かに夫の字で間違いなかった。

真梨子のよく知る美しい達筆、しかしそれだけではやはり

目の前の男の怪しさを拭いきれない。

「えーっと、失礼ですが主人とはどういったお知り合いで?

ご友人・・・には見えないものですから」

男はフッと笑い、ハッキリとした口調で話し出した。

 

「実はご主人とは先ほど初めてお会いしたのです。

ワタクシは今日、とあるパーティーに出向く予定でして

この様な格好をしているのも、そのパーティー

ちょっとしたショーがあるからでございます。

そのパーティーと言いますのが、とても大切なパーティーでして

ショーを任されているワタクシには、いやはや責任重大。

失敗などとても許されない状況でございました。

パーティーのお客様をあっと驚かせるために

ワタクシは会場にいくつかの仕掛けを施さなくてはならず

誰よりも先に会場に向かったのはいいのですが

なにぶん初めての土地でして、お恥ずかしいことに

道に迷ってしまったのでございます。

そこに丁度ご主人が現れまして、まさに天の助けとはこの事。

道案内をして頂き、大事に至らずに済んだのでございます。

ワタクシはご主人に何かお礼を差し上げたいと申し出たのですが

ご主人は何やら大変お急ぎのご様子で、お礼はいらないので

どうかこの封筒を妻に渡してくれとおっしゃいまして

ワタクシとしましては、恩あるご主人の願い

是非とも叶えるべくしてここに参上致した次第でございます。」

 

そう言い終ると男は

胸に手を当て、深々とお辞儀をした。

そして改めて白い封筒に自分の名刺を添えて真梨子に差し出した。

ゆっくりそれを受け取ると、真梨子は改めて名刺を見た

名刺には「宮廷道化師 馬場赤瑪」と書いてある。

宮廷道化師、なんとも胡散臭い肩書きだった。

貴方は一体何者かと、喉まででかかった言葉をぐっと飲み込んだ。

今はもっと聞くべき事がある。それは夫の謎の行動についてだ。

この馬場という男の言っていることが、どーも信用できない。

大体、道案内したぐらいでお礼だの恩だのと少々大袈裟ではないか。

「それで、夫はどこに行くか言ってましたか?

急いでいる理由などは話していませんでした?」

「さあ?ご主人の行き先は存じませんが

ワタクシはこちらをお渡しするよう頼まれただけですので

封筒を空けて中をご覧になってはいかがです?」

確かに、それもそうだ。

封筒の中に何か手掛かりがあるかもしれない。

真梨子が封筒を開けようとした時、お隣の家の扉がパッと開いた。

そこから背の低いややぽっちゃりとした女性が顔を覗かせた。

「どーかした?真梨ちゃん」

お隣の田中さんだ。田中さんは普段からちゃんとお化粧をしていて

常に身綺麗にしている。70歳をとうに超えているようには

全然見えない上に、どこか品のある女性だった。

「あ、おばさん、主人のお知り合いが来てて・・・」

田中さんは目の前の男に目をやって、上から下まで隈なく精査した。

完全に不審者を見る目だ。

ただ、馬場は一つも動じることなく、笑顔でそれに答えると

「お騒がせしてしまい、申し訳ございません。お隣様

ワタクシ馬場と申しまして、こちらのご主人に

大変良くしてもらった者でございます。

その旨を今、こちらの奥様にお伝えしたところでございまして」

田中さんは疑いの目を遠慮なく男に向けたまま言った。

「本当に?詐欺じゃないの?」

「詐欺だなどと、とんでもない。

ご主人が帰ってこられた際に、どうぞ確認なさって下さい。

さすれば嘘偽り無き事が証明されますでしょうから。」

「それならいいけど・・・。最近この辺も物騒なのよ。

私、一人暮らしでしょう?もう心細くって・・・」

「それはそれは、心中お察し致します。しかしお隣にご主人のような

大層頼りになるお方がいらっしゃいますゆえ・・・。」

「あら、そうなのよ。それでね・・・。」

「・・なるほど、なるほど、それなら・・・。」

何故かすっかり打ち解けた馬場と田中さんは談笑しながら

そのまま世間話に花咲いてしまった。

こうなると田中さんの話は中々終わらない。

「あのー・・・。」

やっと真梨子が切り出した頃には、田中さんは完全に

馬場の虜になっていた。

「まあ、やだ、私ったら話し込んでしまって・・・

大事な御用があったのよね?邪魔しちゃってごめんなさいね。

じゃあ、私そろそろ失礼するわね。

真梨ちゃん、今度ゆっくりお茶でも飲みましょうね。

あ、馬場ちゃんも良かったらまたいらっしゃいね。」

そう言うと田中さんは上機嫌で扉を閉めた。

「馬場ちゃんて・・・。」

田中さんの為にも私がしっかりしなきゃ、真梨子は心から思った。

「なんとも気の置けない素敵なご婦人でございましたな。

さて、もう用事は済みましたし、ワタクシもこれから

急ぎの用がありますのでこれで失礼致します。

何かお困りのことがありましたら、どうぞ

名刺の裏に連絡手段がございますので

気兼ねなくお申し付け下さい。では、また・・・。」

男は帽子を綺麗に被り直し、もう一度小さく一礼した後、背を向けて歩き出した。

(ああ、パーティーとか言っていたっけ)

真梨子は馬場の方を見ることもなくそのまま扉を閉めようとした。

その瞬間に、ポツリと馬場の舌打ちが聞こえた。

「・・・ちっ、もう嗅ぎつかれたか・・・。」

「え?」

 閉めかけた扉を再び押し開けると、そこにはもう馬場の姿は無かった。

その代わり、馬場が持っていた黒革のバッグと金の笏が

扉の前に置いたままだった。

「え?え?何?忘れ物?

馬場さん!馬場さーん!?忘れ物ですよー!」

慌てて馬場を呼んだが、返事が無かったので仕方なく

真梨子はバッグと笏を持って馬場の後を追うことにした。

 

 

不思議のはじまり

 

「馬場さーん・・・。」

小さく呼びながら真梨子は階段を駆け下りた。

寝間着の白いくたびれたTシャツと深緑色の短パン

黄色い草履をサッとっと履いただけの姿で

このまま外に出るのはいささか恥ずかしい。

できれば階段を下りきる前に馬場を捕まえたい。そう思った。

馬場の残していった黒いバッグは見た目ほど重いものではなかったが

一方の金の笏の方は1メートルに満たない長さでありながらも

ズシリと重く、不思議なことに熱を帯びているように感じた。

片手で持ち続けるには重過ぎるので、アパートの階段を

一階分降りた所まで来ると両手で持ち替えたほどだった。

階段を降りながら少し冷静になれた真梨子は

馬場のことを思い返していた。

(──やっぱり、おかしい)

失敗できない大事なパーティーとやらがあるというのに

その準備の途中で、たかだか今日会ったばかりの

男の頼みを聞き入れる道理は無いはずで、ましてや

大事な会場への道に迷うほどの男が、なぜうちみたいな

しがないアパートにはたどり着けたのだろう?

「やっぱり嘘だ。本当は何が目的なの?」

考えれば考えるほど合点のいかないことばかりだ。

そして彼が最後に残した言葉。

『もう嗅ぎつかれたか・・・。』

一体何のことだろう?

 

そんなことを考えながら、真梨子は足を止め

ハッとして辺りを見回した。

 

もうとっくに1階に着いていてもおかしくないほど

階段を降りたはずだ。

でも、そこは見慣れた2階の踊り場だった。

今度は足早に駆け降りてみた。

そして見渡してみると、やはりまだ2階の踊り場である。

何が起こっているのか一瞬わからなかった。

何度か同じ事を繰り返した。

駆け足で階段を降り、踊り場を確認する。

何度見ても同じ2階の踊り場で、そのたびに握った笏が熱くなっている

そんな気がした。

(──落ち着いて・・・一度、家に戻ろう。)

真梨子は降りるのを止め、今度は階段を駆け上がった。

しかし今度は登っても登っても3階の踊り場にたどり着かない。

まるでエスカレーターを逆から登る様に、ずっと

そこは2階の踊り場なのである。

「・・・はぁ、はぁ。」

真梨子はすっかり息が切れて、とうとうその場にしゃがみこんでしまった。

42歳の身体に、これはかなりしんどかった。

「何が・・・どうなってるの?」

うつむく真梨子の頬に、上の方から温かい何かを感じた。

そのまま上を見上げると、3階に続いているはずの階段の先が

ぐにゃりと歪み、そのまま緩やかな螺旋状に形を変えたかと思うと

見えなくなるまで上へ上へと伸びていった。

螺旋の先からは明るい光が射し、真っ直ぐ真梨子を照らしている。

逆に下を見ると、モヤモヤとした真っ黒い影が広がってくるのが見える。

──あれは何?・・・煙?」

煙では無かった。モヤモヤとした大きな黒い影からは

小さな細い影が無数に伸び、触手の様に辺りを覆っていく。

「気持ちわる・・・。」

恐怖というよりむしろ嫌悪感と言うべき感情。

真梨子の全身が蠢く影を拒絶している。

影はまるで意思があるように蠢き、何かを探すようにゆっくりと

壁や天井、階段の手すりを飲み込んでいった。

アレに触ってはいけない気がする。

そう感じた真梨子は息も切れぎれに立ち上がると

再び階段を登りだした。

「逃げなきゃ・・・。」

それに気付いたように、蠢く影は勢いよく真梨子の方へと触手を伸ばしたが

上からの光が更に輝きを増し、真梨子を強く照らしながら包み込むと

影は一切手出しができないようだった。

飲み込もうとする影から、光が守ってくれているように思えた。

不思議なのはそればかりではなく

光の方に足を進めるにつれて、さっきまで重かった金の笏が

信じられないほど軽くなっている。

蠢く影が完全に見えなくなるほど階段を上ったところで、

少し落ち着きを取り戻した真梨子は、光の中でだんだんと目が慣れ

周りを見渡す余裕ができた。

辺りは螺旋階段を丸く包むように白い壁が張り巡らされ

壁のところどころに、奇妙な絵やオブジェのようなものが掛かっている。

奇妙であるにもかかわらず、そのどれにも見覚えがあった。

それもそのはず、全ては真梨子が子供の頃に作ったものばかりだ。

小学校の工作で作った気味の悪い形のお皿や、家庭科の授業で作った

不細工なクマの人形 。

幼稚園のときに描いた何かわからない生き物の絵。

お菓子の箱と割り箸で作ったロボットがこちらに手を振り

折り紙で折られたチューリップが5輪並んで歌を歌っている。

他にも昔遊んだ懐かしい玩具や、お気に入りだったもの達が

白い壁に掛かったまま、生き物のように踊ったり笑ったりしていた。

「どれもこれも、とっくで捨てたものや

いつの間にか無くなった物ばかり・・・。

ここはどこなんだろう?どこに向かってるんだろう?」

馬場なら何か知ってるのだろうか。

真梨子はこの状況を受け入れ始めていた。

玩具たちが動いていることにも動揺はなかった。

むしろその懐かしさに、少しばかり元気を貰ったように思う。

長く続く螺旋階段を登りながら、真梨子は今から

やるべきことを考えた。

手がかりとなるのは馬場しかいない。

彼が現れてから少しずつ、色んなことが変化している。

この状況を説明できるのは彼以外考えられない。

そしてここから何とか脱出して家に帰りたい。

「とにかく彼を見つけよう」

真梨子は思い出したように短パンのポケットから名刺を取り出した。

宮廷道化師、馬場赤瑪の名刺だ。

裏返してみると何やら文字が書いてある。

『蠢く影には気をつけなさい

私は貴女の少ない味方、困ったときには何なりと』

不思議なことにしばらくすると文字はスゥーっと消えてしまった。

「何これ・・・てか、あの人確か

連絡先がどーとか、気兼ねなくお申し付け下さいとかって

軽く言ってなかったけ?これじゃ何のことか全然・・・」

去り際の馬場の言葉を思い出しながら真梨子はハタと動きを止めた。

そうだ「連絡先」とは言っていなかった。

彼は「連絡手段」と言ってはいなかっただろうか。

「考えてみたら、スマホも財布も持って無いし

連絡先とか書いてあってもどーしようもないんだった

・・・てことは、連絡手段ってこの名刺そのものか」

真梨子は思い立って、黒革のバッグのファスナーに手をかけた。

(人様の荷物を触るなんてお行儀悪いけど・・・非常事態だし

ちょっと書く物を探すだけだから、ごめんね馬場さん)

バッグの中には変な衣装やアクセサリー、それと

何に使うのかよくわからない小物がゴチャゴチャと入っており

お目当てのものは中々見つからなかった。

しかしそれでもなるべく他のものを見ないようにしながら

一番奥のほうに手を突っ込んでみると、ソレらしき物の感触がした。

そのまま手を引っこ抜くと、赤い1本の美しい万年筆を握り締めていた。

「なんかわかんないけど、あると思った」

真梨子は少しだけ考え込み、万年筆で名刺の裏に走り書きをした。

『私を家に帰してください』

すると思ったとおり、真梨子の書いた文字はスゥーっと消え

新たな文字が刻まれた。

『今はまだ危険、闇の力が強すぎる

このまま前に進みなさい

さすれば必ず望み通りに』

危険?闇の力?

真梨子は畳み掛けるように次の言葉を書いた。

『危険って何?

あなたは今どこにいるの?』

返事はすぐに返ってくる。

『私はいつも貴女の傍に』

この答えに少し呆れた真梨子は

「や、そんな口説き文句みたいのじゃなくて

こっちは本気で聞いてんだけど・・・。」

するとまた文字は消え、新しい文字が浮かび上がった。

『光の加護があれば心配要りません

決して蠢く影に捕まらぬよう

心してお進みください』

その後は真梨子が何を書いても『前に進みなさい』としか

返事が無かった。

真梨子は名刺と万年筆をポケットに仕舞うと

ついでに笏をバッグの中に詰め、再びファスナーを閉めた。

「さて、残る手がかりはもう一つ」

短パンの反対側のポケットをまさぐると、白い封筒を取り出した。

夫の字で「真梨子へ」と書かれたあの封筒だ。

封筒を開けると、中から銀の小さな鍵がコロリと滑り落ちた。

それから手紙が1通入っていた。

手紙には見慣れた文字、間違いなく夫の字でこう書かれていた。

 

『いつも迷惑ばかりかけてすまない

全てがうまくいったら、ちゃんとしようと思ってる

それまでまだ少し苦労かけるけど

どうか信じていてほしい』

 

真梨子は何度も読み返した。

本当はとても心細くて堪らなかった。

夫も同じように何かトラブルに巻き込まれているのだろうか。

まさか娘は・・・。

考えると恐ろしくなり胸がギュウっと締め付けられた。

「止めよう、悪い方へと考えるのは

信じろって書いてあるじゃない。」

真梨子は手紙を丁寧に封筒の中に戻すと

更に大事にポケットの中に仕舞った。

「ここはもうたぶん私の知っている世界じゃないけど

来れたってことは帰れるってことだよね。

多少胡散臭いけど味方もいるし

あの気味悪い影には絶対捕まってはいけないし

とにかく前に進む以外に道は無いんだ。」

なんて立ち直りの早さだろうと自分でも呆れるほどだった。

もしかするとただの強がりなのかもしれない。

しかし、その決断とほぼ同じタイミングで変化が訪れた。

螺旋の光の先に小さな扉が現れたのだ。

茶色い板チョコレートのような扉は、ちょうど人が一人

かがんでくぐれる大きさだった。

小さな古びた金色のドアノブがちょこんと付いており

真梨子は覚悟を決めてそのノブを握った。

わずかに軋むような音をたてて扉が開くと同時に

一瞬の眩しさが暖かな風と共に漏れた。

この向こう側に行けば、もう後戻りは出来ないだろうと

真梨子は直感していた。

この先に何があるのかわからない。

不安が消えたわけでも無かった。

 

それでも真梨子は決断した。

大きく深呼吸をした後、自らの意思でこの冒険の一歩を

踏み出すのだと。

 

 

つづく

 

(°∀°)ノ 

 

 

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